有機リン化合物中毒

概説

  • 英名・略語:organic phosphates intoxication
  • 別名:有機リン中毒、有機リン系殺虫剤中毒
  • 類似疾患:カーバメイト中毒
  • 殺虫剤などに使用されている有機リン系の化合物による中毒。殺虫剤が散布された植物などを誤って食べることによって発症する。また、有機リン系化合物は皮膚からも吸収される。
  • 有機リン化合物はコリンエステラーゼを不可逆的に阻害する作用があるため、誤って摂取するとアセチルコリンの異常蓄積による神経症状を発症する。
  • 有機リン系化合物で有名なものとしてサリンがある。

中毒物質

  • 有機リン系化合物
    • アザメチホス
    • クマホス
    • ジクロルボス
    • ダイアジノン
    • テトラクロルビンホス
    • トリクロルホン
    • フェニトロチオン
    • フェンチオン
    • プロチオホス
    • マラチオン
    • 上記以外の有機リン化合物

症状・病態

  • コリンエステラーゼ阻害によるアセチルコリン蓄積による症状が認められる。
  • 摂取後15分~1時間で発症し、急激に悪化していく。

<神経筋接合部における作用(ニコチン受容体刺激作用)>
  • 神経筋接合部に存在するニコチン受容体におけるアセチルコリンの持続的結合により、以下のような筋肉の不規則な興奮がみられる。
  • 振戦
  • 痙攣
  • 麻痺
  • 呼吸麻痺

<副交感神経刺激作用(ムスカリン受容体刺激作用)>
  • 副交感神経終末におけるアセチルコリンの持続的刺激により、以下のような症状が現われる。
  • 嘔吐
  • 腹痛
  • 胸部痛
  • 流涎
  • 流涙
  • 失禁
  • 下痢
  • 縮瞳
  • 徐脈
  • 呼吸困難
  • 気管支分泌亢進

<中枢神経作用>
  • 元気消失
  • 昏睡
  • 運動失調
  • 不安
  • 縮瞳
  • 多動
  • 痙攣
  • 呼吸抑制、呼吸不全

臨床検査

  • アセチルコリン測定

診断

  • 病歴および縮瞳、徐脈などの特徴的所見から暫定診断を行う。

治療

<解毒>
  • アトロピン
    • 縮瞳、徐脈、唾液分泌亢進などの症状に対してムスカリン受容体拮抗薬であるアトロピンを使用する。
    • 投与量:0.2-0.5mg/kg(i.v., i.m., s.c.)
    • 必要に応じて4~6時間間隔で投与する。

  • プラリドキシム(PAM)
    • プラリドキシムは有機リン-コリンエステラーゼ複合体に作用し、両者を遊離させ、コリンエステラーゼの作用を再活性化させることができる。
    • 投与量:10-5-mg/kg(i.m., s.c., i.v.)
    • 静脈投与する場合は数時間かけて行う
    • 必要に応じて8時間ごとの投与

<輸液>
  • 利尿を目的として、輸液を行う

<抗痙攣療法>
  • 痙攣をコントロールするため、以下の薬剤を投与することがある。
  • ジアゼパム
  • フェノバルビタール
  • ペントバルビタール

<皮膚の洗浄>
  • 皮膚への暴露が疑われる場合、皮膚を洗浄し経皮的な吸収を可能な限り抑える必要がある。

<催吐、胃洗浄、腸洗浄>
  • 摂取後間もない場合には催吐、胃洗浄を行うことがある。しかし、患者の意識レベルによっては、催吐処置および胃洗浄が禁忌となる場合がある。

<その他の対症療法>
  • 痙攣発作などにより、体温上昇がある場合には体温を冷やす治療を行う。

<禁忌>

関連薬


予後

  • 内科的治療により、改善が見られれば予後良好。

予防

  • 経皮的にも吸収されるため、農薬を散布した場所へは近づけないようにする。

カテゴリー


関連用語


関連文献(参考文献



※注意事項
  • この記録はは専門書・学会・臨床経験を参考に作られた資料です。
  • 可能な限り、最新情報、文献に基づいた資料作りをしていく予定ですが、実際の使用方法については各々の責任において判断してください。
  • 獣医師ひとりひとり、考え方、技量は異なり、すべての臨床の場での適応を推奨するものでは絶対にありません
  • 動物医療の場では、薬剤は犬用、猫用もまれにありますが、殆どが人用の薬剤の応用です。ここに記載されている効能、効果、用法、用量、使用禁止期間など一部、すべては日本では承認されていない情報であることをあらかじめ、ご了承ください
  • 獣医師・オーナーさんがこの記録を参考にされることはかまいませんが、成果の責任は各自の自己責任にてお願い致します
  • 現在治療されている動物病院での処方内容についての疑問点は、各動物病院に詳細をおたずね下さい
  • また、このページからの薬の販売、郵送は出来ませんので、ご了承下さい。
  • 記載内容の間違い等ございましたら、ご意見・ご要望ページからお願いします。
 ※2009年より順次更新中です。ページによってはまだ空白のものもあますが、今後徐々に改定していく予定です。


  • 最終更新:2011-10-21 23:02:51

このWIKIを編集するにはパスワード入力が必要です

認証パスワード