慢性腎臓病

概説

  • 英名・略語:chronic kidney disease, chronic renal disease
  • 別名:慢性腎疾患(chronic renal disease)
  • 慢性的な腎臓の機能障害という意味であり、機能低下が軽度な状態から治療を開始する必要性から提唱されている概念。慢性腎臓病が悪化し高窒素血症や臨床症状を示すようになった状態を慢性腎不全といい、厳密には区別されている。
  • 慢性腎臓病初期には糸球体濾過率(GFR)の低下や尿比重の軽度低下が見られる程度であり、特殊な検査を行わない限り一般的には診断することが難しい。しかし、可能な限り進行する前に診断、治療を行うことで、病気の進行を遅らせることができると考えられており、より簡便で精度の高い検査法が求められている。
  • IRISによって、臨床ステージに応じた検査、治療法が世界的に推奨されている。
  • 高齢の犬、猫に一般的に認められ、特に猫では発生頻度が高い傾向にある。
  • 根治的な治療はなく、病気の進行を抑える目的で食餌療法や輸液、ACEIなどの投薬が行われる。

原因・要因

  • 原因は多因性であり、多くは原因を特定することができない。
  • 一部に家族性の腎不全が見られる。

  • 特発性(加齢)
  • 遺伝性
  • 自己免疫疾患
    • SLE
    • 糸球体腎炎
    • 血管炎
  • 腫瘍(腎癌、腎リンパ腫悪性腫瘍の転移)
  • アミロイドーシス
  • 腎毒性因子
  • 腎虚血
  • 尿路感染症
  • 腎結石
  • 尿道閉塞
  • 多発性嚢胞
  • 家族性(ラサ・アプソ、シーズー、ノルウェイジャン・エルクハウンド、シャーペイ、ドーベルマン、サモエド、ウィートン・テリア、コッカースパニエル、ビーグル、キースホンド、ベドリントンテリア、ケアンテリア、バセンジー、アビシニアン)

統計

  • 高齢の猫では一般的にみられる
  • 一部の犬に家族性が見られる(前述)

細分類

  • IRISによるステージ分類
    水和状態における血中クレアチニン濃度によって大きくステージⅠ~Ⅳに分類されている。また、尿タンパク、血圧によってサブステージが決定する。
    • ステージⅠ
    • ステージⅡ
    • ステージⅢ
    • ステージⅣ
    • UPCによるサブステージ
      • 非タンパク尿(NP)
      • 境界域タンパク尿(BP)
      • タンパク尿(P)
    • 血圧によるサブステージ
      • 最小リスク(N)
      • 低いリスク(L)
      • 中程度のリスク(M)
      • 高リスク(H)
※詳しくはIRISのページを参照

病態

  • 初期のステージ(Ⅰ、Ⅱ)では、低比重尿やGFRの低下が見られる程度であり、動物はほぼ無症状。時に多飲多尿傾向や、食欲の低下が見られる可能性がある。
  • 機能的ネフロンが30%以下になると、高窒素血症やそれに伴う臨床症状(多飲多尿、食欲不振、嘔吐など)がみられるようになる。
  • 症状の進行とともに貧血、上皮小体機能亢進症などの合併症を引き起こし、神経障害、胃腸障害、免疫の低下、代謝性アシドーシスなどが見られるようになり、最終的には尿毒症へと移行する。

症状・徴候

  • 多飲多尿
  • 食欲不振、食欲廃絶
  • 体重減少
  • 嘔吐
  • 中枢神経症状(てんかん発作
  • 呼吸困難
  • 血液凝固異常

臨床検査

  • 尿検査
    • 尿比重の低下
    • 尿タンパクを認めることがある。

  • 血液検査
    • 高窒素血症
    • 高リン血症
    • 貧血(腎性貧血)
    • 高カルシウム血症
    • 高タンパク血症
    • 低アルブミン血症

  • 血圧測定
    • 高血圧を認めることがある

  • レントゲン検査
    • 腎結石を認めることがある
    • 腎萎縮を認めることがある

  • エコー検査
    • 腎血流の評価を行う
    • 腎組織構造の評価を行う

  • イオヘキソール・クリアランス検査
    • 腎機能(GFR)を測るための検査

診断

  • 臨床症状、尿比重の低下、血液検査における腎数値の上昇などをもって総合的に判断する必要がある。
  • 初期では尿比重の低下がみられる程度であり、診断が非常に難しい。

治療

  • 腎臓療法食の給餌
    • 慢性腎臓病の進行を遅らせる目的で、リンの含有量を少なくした食事が推奨されている。実際に低リン食を食べさせた慢性腎臓病の犬、猫での生存期間延長が報告されている。
    • 窒素代謝物や尿毒症起因物質の吸収を妨げる目的で、低タンパク食が推奨されている。犬と猫では推奨タンパク質量が異なるため注意が必要である。

  • 補液療法
    • 慢性腎臓病は低比重尿となるため、尿量が増加する。これによって、動物は脱水状態になりやすく、水分、食事量が十分ではない場合は特に顕著となる。
    • 補液療法はこの脱水状態を緩和するために使用される。
    • また、IRISのステージ分類は水和を前提としているため、補液療法によって脱水が改善されて始めて正確なステージングができる。

  • タンパク尿に対する治療
    • 原尿中へのタンパク漏出は、尿細管上皮細胞を障害し、ネフロンの損傷を加速させると考えられている。
    • さらにタンパク漏出によって低アルブミン血症におちいることもある。
    • タンパク漏出を防ぐ目的でACEIなどが投与される。

  • 高血圧に対する治療
    • 腎血流量の低下や機能的ネフロンの減少によって糸球体高血圧が誘発される。糸球体高血圧は一時的には腎機能の代償を担うが、長期的には糸球体硬化の促進につながる。
    • また、全身性高血圧も糸球体高血圧の原因となる。
    • これらの問題を解決させるためACEIやカルシウムチャネル遮断薬などの血管拡張薬が用いられる。

  • リン吸着薬の投与
    • 食事中のリンの制限を行うことができれば、リン吸着薬の必要性はほとんどない。しかし、リンを制限した食事は嗜好性が悪いことが多いため、リン吸着薬を併用することで一般食を食べさせることもある。
    • また、リンを制限した食事を食べていても高リン血症が改善しない場合などにも投与されることがある。

  • 活性炭製剤の投与
    • 尿毒症の原因となる物質を消化管内で吸着させ、便へと排泄させる目的で活性炭製剤を用いることがある。
    • 基本的には、症状の緩和が目的であり、血液検査上の数値にはほとんど変化が見られない。
    • [活性炭製剤は嗜好性が悪いものが多く、動物(特に猫)への給与が難しいことが多い。また、時に消化器症状(下痢など)がみられることがある。

  • カルシトリオール療法
    • 腎臓代謝され産生されるカルシトリオール(活性型ビタミンD)を投与することで、上皮小体ホルモン(PTH)の放出を抑制し、二次性上皮小体機能亢進症を抑制する目的で投与される。
    • 高カルシウム血症や高リン血症が認められる場合は、病態を悪化させることがあるため、これらの血液学的異常を改善してから治療を行う必要がある。

  • 消化器症状に対する治療
    • 慢性腎臓病が進行すると、胃における胃酸の分泌が増加する。これにより、嘔吐、食欲不振などの症状が発生する。
    • これらの症状を緩和する目的で、H2受容体拮抗薬スクラルファートなどの胃薬を用いることがある。

  • 腎性貧血に対する治療
    • 慢性腎臓病の進行に伴い、エリスロポイエチン血中濃度の低下が認められる。これによって、骨髄における赤血球の生成が低下し、腎性貧血と呼ばれる非再生性貧血となる。
    • エリスロポイエチンを補充する目的でエポエチンダルベポエチンなどの薬が使用される。
    • しかし、現在入手可能なエリスロポイエチン製剤はすべて人薬であり、投与によって抗エリスロポイエチン抗体が産生されることが知られている。
    • 一度、抗エリスロポイエチン抗体が産生されると、動物体内にあるすべてのエリスロポイエチンに対して自己免疫が働くため、投与製剤が無効化されるばかりではなく、内因性のエリスロポイエチンの効果もなくなってしまう。
    • そのため、腎性貧血がある一定以上進行(通常PCVが20%以下になった状態)したところで治療開始となることが多い。


予後

  • 合併症の有無、臨床ステージによって異なる。
  • 慢性的な腎傷害は改善することが無いため、腎傷害は徐々に悪化していく。
  • 重度腎不全に対する腎移植は犬では確立された治療法とはいえない。

合併症

  • 二次性上皮小体機能亢進症
  • 尿毒症
  • 腎性貧血

関連薬


予防

  • 特定の予防法はない

カテゴリー


関連用語


関連文献(参考文献

  • 北アメリカの動物病院における小動物の慢性腎臓病
    Chronic Kidney Disease in Small Animals, Veterinary Clinics of North America: Small Animal Practice, Volume 41, Issue 1, January 2011, Pages 15-30, David J. Polzin View Abstract
  • 変性性関節疾患の老齢猫における腎機能に対する長期維持量メロキシカム投与の影響(症例とコントロールの回顧的研究)
    Retrospective case-control study of the effects of long-term dosing with meloxicam on renal function in aged cats with degenerative joint disease., J Feline Med Surg. October 2011;13(10):752-61., Richard A Gowan; Amy E Lingard; Laura Johnston; Wibke Stansen; Scott A Brown; Richard Malik
  • Survival of cats with naturally occurring chronic renal failure: effect of dietary management., Elliott J, Rawlings JM, Markwell PJ, Barber PJ. , J Small Anim Pract 2000; 41:235-42.
  • Survival of Cats with Naturally Occurring Chronic Renal Failure Is Related to Severity of Proteinuria, Harriet M. Syme, Peter J. Markwell, Dirk Pfeiffer, Jonathan Elliott, Journal of Veterinary Internal Medicine Volume 20, Issue 3, pages 528–535, May 2006


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  • 最終更新:2012-02-05 17:46:35

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