尿失禁

概説

  • 英名・略語:Urinary incontinence
  • 尿失禁とは、自らの意思で排尿しているわけではないのに、尿路から尿がこぼれおちてくる状態のことをいう。
  • 原因は膀胱の拡張具合から大きく2種類に分類され、それによって、治療も異なってくる。すなわち、何らかの尿路障害によって尿の排泄が出来ず、膀胱拡張が限界を迎えた時に尿がこぼれおちて尿失禁となるか、主に尿道括約筋の収縮不全により蓄尿する前に尿がこぼれおちることによって尿失禁になるかのどちらかであり、両者は診断・治療法が全く異なる。
  • その他、卵巣を摘出した雌において、術後数カ月から数年後に尿失禁を示す症例があり、ホルモン反応性尿失禁などと呼ばれている。

原因・要因

  • 膀胱の拡張が見られる尿失禁
    • 閉塞性尿路疾患
      • 尿道結石
      • 尿道狭窄
      • 尿道腫瘍
      • 前立腺肥大
      • 前立腺腫瘍
      • 前立腺膿瘍
    • 神経性
      • 脳幹や脊髄の損傷(椎間板ヘルニアなど)
      • 膀胱付近の末梢神経障害
      • 自律神経失調症
  • 膀胱の拡張が見られない尿失禁
    • 先天的異常
      • 異所性尿管
      • 尿管腟瘻
      • 膀胱低形成
      • 外陰部形成不全)
    • ホルモン反応性
    • 膀胱炎
    • 膀胱腫瘍
    • 何らかの原因による尿道括約筋の収縮不全

統計

  • 雄犬には尿路閉塞性の尿失禁が多く、雌犬には先天性またはホルモン反応性の尿失禁がおおい。
  • ゴールデンレトリーバー、オールドイングリッシュシープドッグは異所性尿管の好発犬種である。

病態

  • 各原因によって異なる。
  • 先天的異常による尿失禁は若齢から見られる傾向がある。
  • ホルモン反応性尿失禁は夜間の尿失禁として見られる場合が多い。
  • 尿路閉塞の場合には、繰り返し排尿姿勢をとるものの、尿が出ない状態が続く。

臨床検査

  • エコー検査
  • レントゲン検査
    • 尿路造影

診断

  • 症状、膀胱拡張の有無、病歴から除外診断を行う。
  • 先天的異常を疑う場合には尿路造影を行うこともある。

治療

  • 治療は原因によって異なる。
  • 膀胱拡張を伴う尿失禁の場合、尿道の開口を目的に尿道カテーテルを挿入したり、ベタネコール、フェノキシベンザミンを使用する。しかし多くの場合、尿道閉塞を伴う為、これらの薬剤は慎重に使用する必要がある。また、神経疾患に伴う尿道括約筋の過剰収縮を抑制する目的でプラゾシンを用いることもある。
  • 膀胱拡張を伴わない尿失禁の場合にはα-作動薬やβ-作動薬、抗コリン薬、三環系抗うつ薬などを用いる場合が多い。また、ホルモン反応性を疑う場合には、エストロゲン製剤を用いることもある。
  • 原因が先天性の場合には、尿路変更術を行う場合もある。

予後

  • 原因によって異なる。

合併症

  • 尿路閉塞による急性腎不全

関連薬

<膀胱拡張を伴う尿失禁>

<膀胱拡張を伴わない尿失禁>

カテゴリー


関連用語


関連文献(参考文献

  • 避妊済みの雌と、未避妊の雌において、エストリオール単独とエストリオールとフェニルプロパノールアミンを組み合わせた投与をした場合の下部尿路の尿力学および形態学的変化
    Urodynamic and morphologic changes in the lower portion of the urogenital tract after administration of estriol alone and in combination with phenylpropanolamine in sexually intact and spayed female dogs, Am J Vet Res. May 2006;67(5):901-8., Annick J Hamaide, Jean-Guillaume Grand, Frdric Farnir, Gal Le Couls, Frdric R Snaps, Marc H Balligand, John P Verstegen


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  • 最終更新:2011-10-26 19:36:33

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