アトピー性皮膚炎

概説

  • 英名・略語:Canine Atopic Dermatitis, CAD、韓国語名:아토피성 피부염
  • 別名:アトピー、アトピー素因
  • アトピー性皮膚炎とは紅斑などの特徴的な病変を持ち、環境抗原への炎症反応を生じ、掻痒を伴う遺伝的背景をもった皮膚疾患である。また、特徴的に免疫抑制療法(ステロイド薬免疫抑制薬)に顕著に反応する傾向がある。誤解を恐れず簡単に述べれば、遺伝子が関与し、いろいろなものにアレルギー反応を起こしやすい体質ということもできる。
  • 多くが環境抗原に対するアレルギー反応を伴うため、これらの環境抗原に対するIgE検査で陽性結果が現れる。そのため、IgE検査で環境抗原に対する陽性結果があること、特徴的な臨床像があること、および他の皮膚疾患を除外できることを含めてアトピー性皮膚炎と診断されることが多い。
  • 犬は人と同じような病態を持つことから、比較的研究がすすめられているが(犬アトピー性皮膚炎)、猫は未だアトピー性皮膚炎の定義があいまいにされている部分がある。

原因・要因

  • 様々な研究によってアトピー性皮膚炎の原因遺伝子や、要因が検討されているが、どれも原因と疾病が等しくイコールの関係になることはない。そのため、原因や要因と考えられているものの中の複数が関連していると考えられており、またそれらの原因・要因の関わり合いは個体ごとにそれぞれ異なるのではないかと推測されている。
  • 少なくとも環境抗原に対する何らかの免疫過剰免疫反応が関与していることは事実であるため、この免疫過剰免疫反応(アレルギー反応)を原因と考えることもできる。

病態

  • 紅斑、掻痒などの症状は比較的若齢時から発生する。多くがハウスダストなどの環境抗原に対するアレルギー反応であり、同時に皮膚バリア機能の低下によって膿皮症を併発する。
  • 1つ以上の環境抗原に対するアレルギー反応が発生し、加齢とともに反応する環境抗原は増加していくと考えられている。
  • 治療の有無にかかわらず、炎症反応が持続的に存在すると、動物の皮膚はバリア機能を失い、二次的感染症を併発しやすくなり、同時に脱毛、色素沈着を伴い、苔癬化まで悪化する例も少なくない。
  • これらの病態が重度に進行すると、複数の皮膚感染症の併発、薬剤耐性菌の増加、ステロイド不耐性などの状態に陥り、治療が不可能になるケースも存在する。

治療

  • 原因が多岐にわたるため、基本的には原因療法は期待することができない。現在行われている治療は症状に対する対症療法もしくは、アレルギー反応に対する減感作療法やインターフェロン療法などである。

  • 抗炎症療法
 アトピー性皮膚炎の最も基本的な治療法であり、主にステロイド薬、特にプレドニゾロンが汎用されている。アレルギー症状を緩和させ、皮膚を掻きむしることによる皮膚バリア機能の悪化という悪循環を止め、バリア機能の安定化を目的としておこなわれる。
 ステロイド薬の他にシクロスポリンやタクロリムスなどを内服薬や外用薬の形態で使用される。
 また、抗ヒスタミン薬も比較的効果が低いものの、使用により症状の緩和やステロイド薬の減量を行える可能性があるため、投薬されることもある。

  • 環境抗原の除去
 生活環境内の清掃、空気清浄機の設置、ノミマダニの駆虫を通して、環境抗原を可能な限り少なくすることで、アレルギー反応を抑制する目的で行われる。

  • 抗微生物療法
 抗菌薬抗真菌薬駆虫薬などを用いて、皮膚の二次的な感染症を抑制することは、病態が悪化したアトピー性皮膚炎では重要であると考えられる。

 DHA、EPAなどのオメガ3脂肪酸は、皮膚バリア機能を正常に保ち、炎症反応を抑制する効果があると考えられており、これらを投与することにより、皮膚症状が改善するとされている。

 主に保湿を目的とした低刺激性のシャンプーが検討されており、動物が許容できる範囲でシャンプーを行うことは、皮膚の抗原量を少なくする目的の上でも重要であると考えられている。また、皮膚表面の抗菌成分を補充する目的でスフィンゴシンや保湿剤のトリートメントを行うこともある。

  • 食事療法
 アトピー性皮膚炎と食物アレルギーとの直接の因果関係ははっきりしていないが、食物アレルゲンを極力少なくすることで痒みの閾値を改善させることができると考えられている。そのため、アレルゲンフリーの食事や、必須脂肪酸を追加した食事などが使用されている。

  • 減感作療法
 IgE検査や皮内反応などによって特定されたアレルゲンを非常に低用量から投与することによって、アレルギー症状を緩和もしくは消失させる治療法。
 アトピー性皮膚炎によるアレルギー反応を直接的に治療できるため、劇的に改善するケースも少なくない。
 ただし、厳密なアレルゲンの特定が難しいことと、やや高価であるため一般的に用いられる治療とは言えない状態である。

  • インターフェロン療法
 アトピー性皮膚炎のアレルギー反応は主にIgEを介した液性免疫であると考えられるため、インターフェロンγなどを投与することにより、1型ヘルパーT細胞を介した液性免疫の発現を抑制することができる。
 インターフェロン療法は理論上は優れた治療法であり、実際治療によりステロイド薬の離脱が可能になる症例も存在する。しかし、効果が個体によってまちまちであることおよび比較的高価であることが積極的導入の妨げになっている。

関連薬


分類


関連用語


参考文献

  • Common allergens of atopic dermatitis in dogs: comparative findings based on intradermal tests., J Vet Sci. 2011 Sep;12(3):287-90., Kim HJ, Kang MH, Park HM.
  • Role of the environment in the development of canine atopic dermatitis in Labrador and golden retrievers. , Vet Dermatol. August 2011;22(4):327-34. , S Meury; V Molitor; M G Doherr; P Roosje; T Leeb; S Hobi; S Wilhelm; C Favrot
  • Treatment of canine atopic dermatitis: 2010 clinical practice guidelines from the International Task Force on Canine Atopic Dermatitis Thierry Olivry, Douglas J. DeBoer , Claude Favrot , Hilary A. Jackson , Ralf S. Mueller , Tim Nuttall and Pascal Prélaud for the International Task Force on Canine Atopic Dermatitis
  • 犬アトピー性皮膚炎に対する必須脂肪酸を多く含むフードの効果
    Efficacy of an essential fatty acid-enriched diet in managing canine atopic dermatitis: a randomized, single-blinded, cross-over study., Vet Dermatol. 2008 Jun;19(3):156-62. , Bensignor E, Morgan DM, Nuttall T.


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  • 最終更新:2014-06-29 05:57:41

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